耐震診断と防災検証に求められることとは?②耐震補強工事の課題

耐震補強工事にはまだまだ課題が多いのが現実です。ひとつには現状ではマンションの耐震補強工事に対する補助金は決して多くありません。

しかもその補助金は指定された基準を満たすことを前提としたもので、マンションの補強に対してはあまり期待できないといっていいでしょう。その結果、資金が絶対的に不足してしまい、ほとんどのマンションは補強ができないというのが現実なのです。

目安としては新耐震設計以前のマンションに耐震補強を施す場合、一住戸当たりの平均負担額は数百万円以上にもなるといわれています。こうした理由からも、ほとんどのマンションに耐震診断を行っても基準を満たす補強はできないという現実がのしかかります。それを前提にさまざまな判断をせざるを得ないのです。
コンサルタントとしての意見を求められた場合、私たちは次のような話をすることになります。判定結果の数値が非常に低い場合は「地震が来たら覚悟をしてください」と正直なところを申し上げます。どんな覚悟が必要なのかといえば、それは「壊れることを受け入れる」覚悟です。耐震基準値を満たさないマンションは、建物が地震で大破したり、中破したりする可能性が高いことは間違いありません。中でも考え得る最悪のケースは、マンションそのものが崩壊してしまうことです。

崩壊とはつまり建物がつぶれたり、倒れてしまう状況ですから、居住者の方々が生命を失うことを意味しています。
そのような条件が明らかになった場合、最良の選択は生命を守ること、すなわち崩壊を防ぐことに尽きます。補強の有無にかかわらずマンションが壊れてしまうのであれば、いずれにせよ震災後に居住できなくなるということは受け入れざるを得ません。そう考えると、まず何を置いても地震で人が死なないような人命の確保を第一に考え、補強だけは行うべきとわかるはずです。

「地球」対「マンション」という関係で地震という条件を考えれば、マンションに勝ち目はありません。そこではどう負けるかを考えていくべきなのです。建物を守るための補強ではなく、人命確保の補強手法を考え、目指さなければなりません。それによって比較的少ない資金でも様々な補強を実施できる可能性が出てきやすくなります。

その段階をクリアしたうえで、さらに追加資金が捻出できるのであれば、次に建物大破による二次被害に備えていくべきでしょう。
南西ハイツ

 

本記事は、貴船美彦著作「マンション管理組合 理事になったら読む本」(幻冬舎2014年)から内容を抜粋して掲載しております。

つづく・・・

マンションの防災でお悩みの方はこちらをご覧下さい

まずはマンション全体で防災についての意識を持つことがスタートです。専門家による防災全般の調査を行い、実態を把握することが重要です。
起こる前に準備をしましょう。準備をしておくかしておかないかで、大きな差がでます。
翔設計では耐震補強や水害対策、災害時マニュアルの作成等、防災に関する様々な業務を行っておりますので、ぜひご相談ください。

上部へスクロール